お水を汲み上げる魔道具がちゃんと井戸に着いたもんだから、今度はお風呂の所へ。
そしたらね、昨日は無かったドアがついてたもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
「わぁ、もう入るとこができてる」
「はははっ、どうだ、すごいだろ」
そんな僕に、職人のおじさんはニカッて笑って、びっくりしただろ? だって。
でもさ、これを見たらだれだってびっくりすると思うよ?
だってこの入るとこが新しくできてる壁、石でできてるんだもん。
それなのに昨日は無かったおっきな穴が開いてて、そこに新しいドアがついてたらびっくりするのは当たり前だよね。
「ねぇねぇ、どうやったの? みんなで、おっきな金づちで叩いたとか?」
「いやいや、そんな事をしたら、館の壁にひびが入ってしまうかもしれないし、最悪壁全体が崩れかねないぞ」
このお家の壁はね、レンガみたいに四角く切った石を泥みたいなのでくっつけながら積み上げて作ってあるんだよね。
だからおっきな金づちで叩いたりしたら、その振動で別のとこもくっつけてある泥みたいなのが取れちゃって、もしかすると壁全体が壊れちゃうかもしれないんだって。
「そっか。でも、それだったらどうやって穴を開けたんだろう?」
木でできたお家と違って、石の壁はノコギリでギコギコやって切る事なんかできないでしょ?
だから僕、どうやって穴を開けたのかなぁって頭をこてんって倒したんだよ。
そしたらそれを見た職人のおじさんが、どうやったのかをすぐに教えてくれたんだ。
「まぁ、普通に考えたら解らないわなぁ。これはな、魔法使いに手伝ってもらったんだ」
「魔法が使える人に?」
「ああ。今回の工事はフランセン様とバーリマン様が関わっておられるからな、俺たちでも魔法使いに依頼を出す事ができたんだよ」
魔法って、使えるようになるにはすっごくお金がかかるんだよって前に教えてもらったでしょ?
だからね、魔法が使える人の殆どはお貴族様か、すっごいお金持ちの家の人ばっかりなんだって。
そんな魔法が使える人たちは平民でもみんな偉い人ばっかりだから、普通だったら頼みに行っても魔法を使ってなんかくれないんだよって職人のおじさんは教えてくれたんだ。
「このドア一つ付けるだけでも、もし俺たちだけでやろうと思ったら10日前後はかかっちまうんだぜ。なのに魔法を使ったらあっと言う間に穴が開くんだからなぁ。ほんと、魔法って言うのは便利なもんだぜ」
「そっか。クリエイト魔法を使えば、石でできた壁だって簡単に穴を開けられるね」
ディグとかの魔法を使わなくったって、穴を開けたいとこの石を1個ずつクリエイト魔法で2個に分けてけばあっという間に穴が開いちゃうんだ。
それにね、その時に切ったとこの石を変形させとけば、崩れないようにだってできるもん。
そりゃ、魔法を使えば簡単にできるよね。
そう思った僕はひとりでうんうんって頷いてたんだけど、そしたら職人のおじさんがちょっとびっくりしたようなお顔で僕にこう聞いてきたんだよね。
「クリエイト魔法って、なんで使った魔法が解るんだ? 今まで着ている服からどこかの村の子供なんだろうと思って話していたけど、もしかして坊ちゃんもお貴族様だったりするのでしょうか?」
「えっ、違うよ。僕のお父さんとお母さんはね、村で狩人をしてるんだ」
職人のおじさんはね、僕がロルフさんたちと一緒に来てたし、それにクリエイト魔法の事も知ってたからもしかしてお貴族様なのかなぁって思ったんだって。
でも僕、お貴族様じゃないでしょ?
だから違うよって教えてあげたんだ。
「そうか、それはよかった。もしこんな風に話してたのがお貴族様だったりしたら、不敬罪とか言うので捕まっちまうかもしれなかったからな」
「お貴族様だと、捕まっちゃうかもしれないの?」
「ああ。ちゃんと敬語ってのを使って話さないとダメなんだぞ」
おじさんはね、職人さんたちをいっぱい雇ってる工房ってのをやってるから、お貴族様やすっごいお金持ちの人たちともお話する事もあるんだって。
だからそんな時は怒られないように、一生懸命敬語で話してるんだよって笑うんだ。
「敬語なんて普段は使わないからなぁ。お偉いさんたちと会話するたびに、間違ってないか毎回ドキドキしながら話してるんだぞ」
「間違ったら、怒られちゃうの?」
「いや、今のところそんな事で怒ったお偉いさんにあった事は無いが、やはり感じのいい事は無いだろうからなぁ。もし間違えたら、次からは別の店に依頼を持っていってくかもしれないんだ。だから俺は毎回、敬語を間違えないように気を使ってるんだぞ」
職人のおじさんが普段、敬語で話してないのなんて偉い人たちだって解ってるよね。
だから一生懸命敬語ってのを話しとけば、たとえそれがお貴族様だってそんな簡単に怒っちゃったりしないんだって。
でも、もしすっごく間違った敬語で話してたら、おじさんとお話するのがやになっちゃうかもしれないでしょ?
そんな事になったら、次からは違うお店に行っちゃうかもしれないからって、職人のおじさんはお貴族様やお金持ちの人たちとお話した後はすっごく疲れちゃうんだよって教えてくれたんだ。
「その点、今回は坊主がいてくれて助かったよ。もしフランセン様やバーリマン様しかいなかったら、ずっと気が休まらなかっただろうからな」
「そっか。僕、村の子だからロルフさんたちと違って敬語ってのを使わなくてもいいもんね」
「ああ、そういうこった」
職人のおじさんはね、僕にありがとなって言ってニカッて笑ったんだ。
ちょっと短めですが、今回はキリがいいのでここまでで。
ルディーン君は確かにロルフさんやバーリマンさんのように貴族ではありませんし、この街の重鎮でもありません。
でもこの館の持ち主であり、その収入はそこらにいる下級貴族よりはるかに多いと知ったらこの職人のおじさんはものすごくびっくりするでしょうね。
まぁもし知られたとしても、おじさんが敬語で話したりしたらルディーン君は凄く困ってしまうでしょうけどねw